資金繰り表作成する?しない?
会社経営をする方なら一度は耳にする「資金繰り表」
でも実際作成するのって難しいの?しないといけないものなの?
そもそもなんのために作成するの?手元に現金があるから大丈夫!資金繰り?管理できている!
なんて思っていませんか。ここでは資金繰り表作成について段階を追って説明していきます。
なお、資金繰り改善に関連する記事は、”資金繰り改善策25選“で詳しく解説しておりますので、こちらもぜひご参照ください。
目次
資金繰りとは
資金繰りという言葉は人によって捉え方が異なるかもしれません。
ここでの「資金繰り」は会社経営をする上での「資金繰り」です。
資金繰りとは、経費などの支払いに対応できるよう「会社に入ってくるお金」と「出ていくお金」の管理を行い資金の流れをコントロールしていくことを指します。
経営者は、仕入れ・支払いのための現金、社員の給与、売掛金の回収など、社内のお金の出入りを把握し、支払いがスムーズにできるよう資金繰りを行っていかなければなりません。
試算表?資金繰り表?
顧問税理士から毎月もらう書類の中に、試算表というものがないでしょうか?また、これは資金繰りを見るために利用できるのでしょうか?
試算表(合計残高試算表)
試算表とは、一か月ごとに作成する貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)の元になるものです。
試算表は決算書を作成する前段階で、仕訳や金額の転記作業にミスがないかを確認するための帳票です。試算表を見るだけでもおおまかな資金繰りの様子はつかめます。
資金繰り表
試算表では資金繰りが大変そうだと推測できたとしてもいつ、いくら足りなくなるかはまったく分かりません。
例えば、「売掛金や未収金がいつ入金される」という情報や「買掛金や未払金をいつ支払う」という情報は試算表や決算書にはありませんよね。試算表は過去の記録であるとともに、入出金の情報が載っていないので将来の現金預金の残高がどうなるのかは分からないのです。
そのため試算表とは別に資金繰り表を作成する必要があるのです。
資金繰り表を作成しない理由
資金繰り表を作成していない中小企業は多いです。なぜ作成しないのでしょうか?
見落とし
売上規模の大小にかかわらず、法人であれば税務申告が必要となってきます。個人事業主の場合は確定申告を必ずしなければなりません。
申告のために1年間もの資金の流れのすべてをまとめて数値化する…そんなことを言われるだけで苦手意識がでてしまいますよね。税務申告に必要であるから、会計ソフト・システムを導入して、税務の先生(公認会計士や税理士)に託す。この一連の流れが「資金繰り表を作成しない理由」になってしまうのです。
つまり、「数値の記録・集計は専門家がチェックしてくれて税務申告までしてくれるから大丈夫!」「会計システム・ソフトは経営状態を集計して示してくれるから大丈夫!」そして「その経営判断に役立つであろうデータは手元にある。税務の先生にアドバイスしてもらえるから大丈夫!」
したがって「資金繰り表」なんて面倒なものを作成する必要なんてない、となるのです。
しかし、ちょっと待ってください。あることを見落としています。この一連の事象・行動の目的は税務申告ということに重きを置いているので、経営判断の資料もアドバイスも、税務申告を前提とした会計ルールから出てくることになります。
勘定あって銭足らず
資金繰り表作成の目的は、事業の存続と拡大のための指標(資料)とするところにあります。
税務申告とは目的が異なるので、もちろん作成するルールも違います。
現在では、資金繰り表が作成できる会計ソフトがたくさんあります。しかし、残念ながら、現在の会計ルールを維持しながらでは、その会社にあった分かりやすい資金繰り表の作成はできないのです。税務申告をもとにした会計ルールと、事業存続のために資金の流れに特化した資金繰り表ではルールが違うのです。無理に帳尻合わせをしようと思えば、どうしてもわかりにくいものになってしまいます。
税務用の会計ルールを用いて資金繰りの管理をしていませんか?事業をしっかりと継続していくためには、資金繰り表も見て経営判断をしていきましょう。資料を見た限りでは利益が出ていて優秀だけど、実は資金繰りは苦しいというような状況はよく起こります。
資金繰りの種類と使いわけ
予定月繰り表
毎月の入金、出金の予想を1ヶ月ごとに作成していく資金繰り表です。
例えば、売上であれば前年度を参考にすることで、毎月どのくらいの金額になるのか、また売上のうちすぐに回収できる現金と一定期間ごとに回収される売掛金の割合などは粗方予想できます。また、支払いに関しても同様です。税金は支払月が決まっていますし、前年度の決算を参考にすればわかります。従業員給与についても大きく変動することはないでしょう。設備投資をする際も、急には決まるものではないので予想が立てやすいです。
このように一つ一つの項目の入出金を予想しながら作成するのが「予想月繰り表」です。
実績月繰り表
これが一般的に認識されている「資金繰り表」となります。1ヶ月ごとに実際の入出金を管理します。
予定月繰り表と実績月繰り表は、両方作成することが望ましいです。予想に対して実際はどのような資金の動きになったのか、どこで乖離がおきたのかが一目瞭然になるからです。
日繰り表
日繰り表の管理は、毎日の入出金の実績を記載していくことで、月中の資金の安定を目指すために有効な作業となります。そして実績を基に翌月の予定を見込んでいくのです。また、翌月繰越金額をいくらにすればよいか?などを決めることにも役立ちます。
月繰り表だけでは月中の資金の安定は図れません。例えば、月中の何日に一番資金がなくなるかを把握しているでしょうか。もしかしたら、給与支払日が一番会社の資金がなくなる日、となっているかもしれません。その時点で会社に資金がどのくらい残っているかが重要となります。業績が安定している会社は、この時点の資金で翌月の支払い金額をカバーできています。
本当に資金繰りが厳しくなってくれば、会社の資金が枯渇してしまう日が明確になるため、つなぎ資金の借入をしてしまうでしょう。そうなってしまったら借入する前よりも厳しい状態になるリスクが出てきます。そうならないために、翌月繰越金額を何としてでも確保し、支払優先順位を決め、借入をせずに事業が継続できるようにしていく方法を真剣に検討する必要があります。
資金繰り表を作成する理由
資金繰り表を作成する理由は何でしょうか?ここでは、いくつかの視点から解説します。
実際に作成した理由
資金繰り表を作成している会社の社長が、資金繰り表を作成し始めたきっかけの多くは「資金繰りが苦しくなったから」でした。多くの社長は「会社の業績が安定しているときに資金繰り表を作成し、内部資金の確保につとめるよう各部署と情報共有しておけば良かった…」と後悔しています。
つまり、「資金繰り表を作成した理由」は、資金繰りが厳しくなって切羽詰まった中で、いつ資金が尽きるのかを確認するため、ということになります。
損益と資金のズレ
資金繰り表は、販売代金の入金や仕入代金の支払いの事実に基づいて会社の資金繰りを表します。
販売と入金のタイミングは、多くの場合ズレが生じます。小売業や飲食店の場合ですら、お客さんがクレジットカードで支払いをすれば、売掛金となり、販売と代金入金のタイミングはズレるのです。手形決済も販売してから入金されるまでに一定の期間は現金化されません。もちろんすぐに手形を割り引いて資金化することもできますが手数料がかかるので代金回収額は少なくなってしまいますし、不渡りとなったときのリスクも上昇します。得意先の経営状態によりいきなり「代金の支払を猶予してほしい!」なんてことも長年事業をしていればいるほど経験することでしょう。
同様に、仕入れと仕入代金の支払いのタイミングも異なることがほとんどです。
ですので、販売と仕入の事実に基づき、会社の損益を表す損益計算書と、入金と出金の事実に基づき、会社の資金繰りを表す資金繰り表は、異なる結果となります。損益が黒字でも資金繰りはマイナスであることや、その逆の状況は頻繁に起こります。
人間の脳の記憶力には限界があります。あらゆるズレを一つ一つは把握できていたとしても月次、半期などで見ていくと思っていた資金繰りとは違うな…と思うことがでてきます。そのズレを生じさせないためにも資金繰り表を作成することをお勧めしています。
そのためには、上述の予定月繰り表と実績月繰り表を作成することが望ましいです。
交渉材料としての資金繰り表
銀行がお金を貸すときにもっとも重視するのは、資金使途と返済財源です。
資金繰り表では全体の資金の流れ、つまり資金の調達(源泉)と資金の運用(使途)を可視化することができます。資金繰り表は、使途が適正であり、回収に問題がないことをアピールするための力強い訴求資料です。
しかし、銀行への融資の申し込みの際の必須提出資料の中に「資金繰り表」がないのも事実です。資金繰り表がなくても融資の審査には入ってもらえます。ですから、小中小企業では、あえて労力をかけてまで資金繰り表を作成しないというのも納得できます。
決算書や損益計算書は粉飾することはできますが、資金繰り表は粉飾することはできません。月末現預金残高は、嘘をつかない絶対的な数値です。
資金繰り表を作成し、銀行へ自主的に持ち込めば金利などを交渉する際に有利になることもあります。銀行担当者はその資金繰り表(予定&実績が望ましい)をもとにお金の入出金の実績を確認し、予定をヒアリングすることで企業側への信頼度も上がります。業績も上向きで資金繰りも問題ないならば銀行側と対等な立場で金利水準の交渉をすることもできます。
銀行は堅実で書類主義なところもあるので口頭でのヒアリングは参考にされないこともあります。
ぜひ、この機会に一度資金繰り表を作成することをお勧めします。
おわりに
資金繰り改善ができれば会社経営に余裕が生まれ、従業員が一生働ける環境の会社づくりをするための基礎ができます。従業員に財務がわかる人がいない、財務の専門家が必要ということがあれば、当社にお声がけください。会計や税務だけでなく、財務、保険、銀行取引やITにも強い公認会計士が、あなたの会社の発展のため、全力で支援させていただきます。
財務、退職金制度、経営等について、お役に立てる情報があるかもしれませんので、よろしければコラムの一覧もご覧ください。